怪奇幻想小説

今日は僕のペンネームの一つである笹本剣太朗名義で怪奇幻想小説を書いてみたいと思います。どうぞご堪能ください。

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写真屋の客/笹本剣太朗


今日はバイトだった。
写真屋だ。写真屋でバイトしている


今日はヤバかった。下手をすれば死んでいたかもしれない。


レジ打ちの快感を覚え始め、用もないのにむやみやたらとボタンを押したい衝動に駆られていた午後。奴はやってきた。
「写真を撮ってくれないか」
40代後半ほどの男だった。
「お名前は?」
「死神・・・人はそう呼ぶ・・・」
男は電波障害を受けているようであった。
「いえ、本名をお願い致します」
仮にジョークだったとしてもオレはクスリとも笑わない。
何故なら、面白くないからだ。


男はニヤリと笑い答える。
「・・・本名が死神なら?」
「・・・はい。死神さま・・・と」
それはオレが始めて見たキチガイだった。
しかし、キチガイでも客は客だ。きちんとした対応をせねば。


男は椅子に座り襟を正した。
オレはカメラの前に立って男にピントを合わせた。
「背筋伸ばしてください」
そう指示を出すと男はオレを凝視して呟いた。
「古より写真とは魂を奪うという・・・君は信じるかね?」
「とりますよー」


―――――――カシャ


次の瞬間、シャッター音と共に男が椅子から崩れ落ちた。
そして、男の口から白い、丸い固まりが出現し浮遊した。


魂であった。


オレはビビった。
「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
叫んだ。


魂は俺に向ってきた。
「ひーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
オレは店を出て走った。
走りまくった。後ろを振り返る。
アイツはきっとオレに入り込もうとしているに違いない。


魂はいなかった。
恐る恐る店に戻ると、魂はなかった。
男は倒れていた。その横に白い、丸い餅が落ちていた。


魂ではなく。餅だった。
オレは可笑しくなって笑った。声を上げて笑った。


・・・すると餅がピューンと飛んでオレの口に入った。


オレは喉を詰まらせて死にそうになった。


オレと男は救急車に運ばれた。オレも男も命に別状はなかった。
病院を出る時、男と会った。
「ふふふ・・・良かったですね・・・死ななくて・・・」
男は奇妙な笑みを浮かべ去っていった。


どうやら奴は本当の死神だったようだ。
餅とは一本取られたぜ。




いかがでしたでしょうか?次回は『薔薇を運ぶ老人』をお送りいたすかもしれません。