街へ出よう

第一章 出会いは突然に

心斎橋のまんだらけに行くことにした。かなり前になんばから移転したのだ。アメリカ村のど真ん中にあるらしい。そうか、知らぬ間にアメリカ村サブカルの地になっていたのか。きっと夢野久作とか横尾忠則とか、町田町蔵とか花輪和一とか、成海璃子が好きな人がたくさんいるのだろうな。

変なお店がたくさんあって、店内ではナゴム系の音楽とかニューウェーブ、ノーウェーブなんかがかかりまくってんだろうな。そんで、グミ・チョコレート・パインに出てくるような男共で溢れてんだろうな。なんて事を考えていたらアメリカ村に着いていた。


第二章 ひと夏の恋

アメリカ村はパッと見、全然変わってなかった。ダボダボのズボンや上着を着た人や染色やパーマなどで奇抜に変形させた髪型の人、原型の分からない化粧を施した人などで溢れていた。お店も、カジュアルで高そうな服を売っている店がたくさんあった。あれ?おかしいな。何も変わってないぞ。

オレはまんだらけへと歩を進めた。途中、中古レコードのお店もあったが、見つけたのは一軒だけ。どうやら、ここは何も変わっちゃいなかった。ただ、まんだらけが心斎橋のしかも、アメリカ村のど真ん中に移転したというだけの話だった。

オレは思った。わざわざ、なんでこんなまるで人種の違う人間が集う場所に移転したのか。いや、違うと思うのは見た目だけで、ローライダーをホッピングさせながら「根元敬超おもしれー」とか言ってるのか?夜のクラブで「吐き気がするほどロマンティックだぜ」とか言って女を口説いているのか?


第三章 彼女とオレと野良猫と

オレは、そんな事を考えながらまんだらけに入った。そして、オレは少しホッとした。地味な服格好で漫画やフィギュアなんかを漁る人たちの姿があった。派手な格好と言っても店員のコスプレとか、厚塗りの化粧といってもゴスロリのとか。そう、それが多分正しいスタイルだ。

心斎橋店は四階まであり、オレは店内を歩き回って何がどこにあるのかを確認した。そして再び一階に戻る頃、だいたい何がどこにあるのかを忘れていた。最後にオレは前々から気になっていた阿部洋一の『バニラスパイダー』という漫画を買った。


第四章 愛の流刑地

そして買い終わって店を出た。目の前には又、まんだらけの中とは相反する世界が映る。しかし、一体何故アメリカ村なんだ?そう思っているのはオレだけではないはずだ。まんだらけにいた人間の大半が思っているはずだ。全員ではないのはただのリア充くさい奴がワンピースのフィギュアを見ていたからだ。

ワンピースといえば海賊漫画。海賊とは略奪者。そう、まんだらけに通うような人間にとってアメリカ村は略奪者の集まるような街に見えてしまうのだ。多分。知らんが。まあ適当に言ってみただけだけど。

とにかくB-BOYやチャラ男やギャルというモンスターが蠢くいばら道を抜けて神殿へ向かい、更に帰還しなければならない擬似RPGをこちらは別に体験したくはないわけだ。それをリュックとビニールないしは紙袋といった軽装備で挑むなんて愚か過ぎる。

だが、今日のオレは少し強気だ。何故ならまんだらけに来る前に日本橋でモデルガンを購入していたからだ。たまたま、購入しただけなのだがこれはラッキーだった。これでモンスターに襲われてもコイツを差し出して見逃してもらうのだ。


第五章 運命の再会

しかし、何事もなくいばら道を抜ける。うむ、良かった。御堂筋に出るとオレは地下鉄心斎橋駅へ向かう階段を下った。後は電車に揺られ、乗り換え、また揺られ、自転車に乗って自宅へ向かう。ニートのオレだが電車内では妙な見栄をはり仕事帰りですよ、という感じを出そうとした。

無事帰宅したオレはPCに電源を入れた。そして、オレはまだ考えていた。何故、まんだらけアメリカ村にあるのかを。PCが立ち上がる。WEBブラウザを開くと検索欄に『まんだらけ』と入れてエンターキーを押した。


第六章 それが愛だと云うのなら

ああ、そうか。まんだらけのホームページを見て分かった。そうだったな。確か心斎橋店の名前って『グランドカオス』だったよな。コンセプトはカオス、混沌か。しかも頭にグランド付き。壮大な混沌か。だからアメリカ村という場所にあるのか。

店内とか品揃えとかがカオスとかじゃなくて、そんな場所にあるのがカオス。まんだらけに来るような人間がアメリカ村の村民達に混じっているのがカオス。また、まんだらけにそんな村民達が来るのがカオスって事か。いや、知らないけどそういう事でいいか。そう思った。

何となく納得出来た気がしたオレは買ってきたバニラスパイダーを読んだ。そして、読みながら思った。「吐き気がするほどロマンティックだぜ」とか言って女を口説くっていうくだり、一体なんなんだよって思った。